親が死んだ後も実家に住み続ける兄に家賃の請求はできるのか?遺産分割における不動産の使用について弁護士兼税理士が解説
- 2026.09.30

親が亡くなった後も、兄が実家に住み続けている。家賃を払ってほしい、できれば出ていってほしい。相続の現場では、こうしたご相談をよくいただきます。請求できるかどうかは、親が兄の居住を認めていたか、兄がいつから住んでいるかで分かれます。本コラムでは、実家に住み続ける相続人への家賃(賃料相当額)の請求と明渡しの可否、請求できない場合に遺産分割で不利にならないための考え方を、川崎・武蔵小杉で相続を扱う弁護士兼税理士が解説します。
|
【結論】 親が兄の居住を認めていた場合、親の存命中の家賃は請求できません。親の死後も、遺産分割が終わるまでは、家賃(賃料相当額)も明渡しも原則として請求できません。請求できるのは、相続後に無断で住み始めた場合、親が居住を認めていなかった場合、用法違反がある場合、遺産分割が終わった後の場合などです。 |
親の存命中に兄が住んでいた期間の家賃も請求できるのか?
まず、親の存命中の分です。親が兄の居住を認めていた場合、その期間の家賃をさかのぼって請求することはできません。
親が生前に家賃を求めず、兄が住むままにしていたなら、親は兄が無償で住むことを認めていたと評価されます。これは法律上「使用貸借」(無償で物を貸す契約)にあたり、契約書がなくても、言葉にしない黙示の合意が認められるのが通常です。兄が親に生活費や家賃を入れていなかった事実は、家賃の支払義務の根拠になりません。分かれ目は、支払の有無ではなく、親が居住を認めていたかどうかです。
例外は、親が兄の居住を認めていなかった場合です。たとえば、親が兄に退去や家賃の支払を求める手紙・メール・LINEを送っていた、内容証明郵便で通知していた、といった資料が残っているケースです。この場合、親は兄に賃料相当額の支払(不当利得、つまり法律上の理由なく得た利益の返還)を求められる立場にありました。この請求権は親の死亡により相続人に引き継がれますが、請求する側が、親が居住を認めていなかったことを資料で示す必要があります。親が認知症などで意思を示せなかった時期に住み始めた場合は、承諾の有無の判断が難しくなります。
この請求権は金銭債権のため、原則として遺産分割の対象にならず、各相続人が法定相続分に応じて個別に請求します。相続人全員が合意すれば、遺産分割の中でまとめて解決することもできます。
実家の明渡しや賃料相当額の請求ができるのはどんなケースか?
親の死亡後(相続開始後)については、基準となる最高裁判決があります。
|
【最高裁平成8年12月17日判決の要旨】 相続人の1人が、相続開始前から親の許諾を得て親所有の建物に同居していた場合、特段の事情がない限り、相続開始後も、遺産分割で建物の所有者が決まるまでは、その相続人に無償で使わせる合意があったと推認される。 |
つまり、親の生前から同居し、親も認めていた兄には、遺産分割が終わるまで使用貸借が続くと考えられます。この場合、他の相続人は、遺産分割が終わるまでの家賃相当額を請求できず、明渡しも求められません。請求できるのは、この判決の前提から外れる場合です。判定の流れと代表的なケースを、次の図と表に整理しました。
図1 実家に住む相続人への請求の判定フロー
|
ケース |
賃料相当額の請求 |
明渡し |
|
親の生前から同居し、親も認めていた |
遺産分割が終わるまでは原則できない |
遺産分割が終わるまでは原則できない |
|
相続開始後に無断で住み始めた |
持分に応じて請求できる |
当然にはできない。協議や調停で理由を示して求める |
|
親が無償使用を認めない意思を示していた |
持分に応じて請求できる |
当然にはできない。協議や調停で理由を示して求める |
|
用法違反がある、第三者に貸して収益を得ている |
使用貸借の解除後に請求できる。受け取った賃料は持分に応じて請求できる |
使用貸借の解除後に求められる |
|
遺産分割が終わった後も住み続けている |
建物を取得した相続人が請求できる |
建物を取得した相続人が求められる |
相続開始後に無断で占有を始めた場合
平成8年判決が前提とするのは、相続開始前から親の許諾を得て同居していた相続人です。親の死後に、他の相続人の了解なく実家に住み始めた場合は、この前提を欠き、使用貸借は推認されません。
遺産分割が終わるまで、実家は相続人全員の共有(遺産共有)です。持分を超えて使う共有者は、他の共有者に使用の対価を支払う義務を負います(民法249条2項。令和5年4月1日施行の改正で明記)。改正前も、不当利得などを根拠に同様の請求が認められていました。たとえば、遺産が実家のみで、相続人が兄と弟の2人(法定相続分は各2分の1)なら、兄が実家全体を使っているとき、弟は賃料相当額の2分の1を請求できます。賃料相当額が月10万円なら月5万円が目安で、近隣の相場や不動産業者の査定をもとに算定します。
明渡しは別に考えます。持分の過半数を持つ相続人でも、実家を使う他の共有者に、当然には明渡しを求められません(最判昭和41年5月19日)。令和3年の民法改正で、共有物を使う共有者がいても、使用方法は持分の価格の過半数で決められると明記されましたが(民法252条1項)、居住者に特別の影響が及ぶ場合は、その承諾が必要です(同条3項)。実際には、賃料の請求と並行して、退去時期の交渉や遺産分割調停で解決を図ります。
被相続人が無償使用を認めない意思を示していた場合
平成8年判決は、「特段の事情がない限り」使用貸借が推認されるとしています。親が兄の居住を認めない意思をはっきり示していた場合は、その典型です。兄に退去や家賃の支払を求める手紙・メールを送っていた、内容証明郵便で通知していた、他の親族に宛てて居住を認めない意向を書き残していた、といった事情がこれにあたります。この場合、他の相続人は持分に応じて賃料相当額を請求できますが、結論を左右するのは、親の意思を示す資料が残っているかどうかです。生前に親から聞いた話のみでは、兄が争えば認定が難しくなります。親の携帯電話や自宅の書類から、書面やメッセージを早めに確保してください。
用法違反がある場合や、第三者に貸して収益を得ている場合
使用貸借が成立していても、借りている側には、契約や建物の性質に沿った使い方をすること(民法594条1項)、貸主の承諾なく第三者に使わせないこと(同条2項)というルールがあり、違反すると貸主は契約を解除できます(同条3項)。たとえば、兄が実家を店舗や事務所に改装した、一室を他人に貸して家賃を得ている、といった場合です。解除は持分の過半数を持つ相続人が進められると考えられ、解除後は明渡しと賃料相当額を請求できます。
兄が第三者から受け取った賃料は、遺産である建物から生じた収益です。遺産分割が成立するまでの賃料は、各相続人が相続分に応じて取得するため、他の相続人は自分の持分に応じた分を兄に請求できます。収益物件の相続については、関連コラム「故人が所有していた収益不動産の相続をしたい方へ」で解説しています。
遺産分割が終わった後も占有を続けている場合
使用貸借は、遺産分割で建物の所有者が決まるまでの間のものです。遺産分割が成立して他の相続人が建物を取得した場合、兄が住み続ける根拠はなくなり、取得した相続人は、所有権に基づいて明渡しと、分割成立後の賃料相当額を請求できます。遺言で他の相続人が取得した場合も同じです。退去しないときは訴訟が必要になることがあるため、分割の合意の際に、明渡しの期限を明確に定めておくと争いを減らせます。
|
ご自身のケースで家賃を請求できるか、判断に迷われたら 親御さんの居住に関する手紙・メールや、固定資産税の納税通知書をお持ちのうえ、武蔵小杉駅から徒歩3分の当事務所へご相談ください。初回相談は60分無料です。 電話:044-789-5441(平日9:30〜17:30) |
賃料を請求できない場合でも、遺産分割で不利にならないための視点
使用貸借が認められると、賃料も明渡しも請求できません。しかも使用貸借は遺産分割が終わるまで続くため、兄は協議を長引かせるほど、無償で住み続けられます。相続開始から10年を過ぎると、原則として、特別受益や寄与分を考慮した分割を求められなくなります(民法904条の3)。10年が過ぎる前に家庭裁判所へ遺産分割の請求をしておけば、この制限は受けません。
占有・居住の利益を分割案の交渉材料にする
兄が実家に住み続けたい場合、兄が実家を取得し、他の相続人に代償金(現金)を支払う分け方(代償分割)が現実的です。兄が長く無償で住んできた事情は、代償金の額や支払時期、兄が取得しない場合の退去時期を決める場面で、考慮を求められます。
なお、親の建物を無償で使っていた利益は、「特別受益」(生前に受けた特別の利益として相続分から差し引く仕組み)と認められにくいとされています。無償の居住は親の好意による面が強く、遺産の前渡しとみなされにくいためです。賃料相当額を特別受益として主張するのみに頼らず、代償金の額や退去時期を含めた分割案全体の中で調整するのが実務的です。
固定資産税・修繕費・光熱費の負担を清算対象として整理する
相続開始後の固定資産税や修繕費は、遺産に関する費用として、遺産から支払うのが原則です(民法885条)。ただし、使用貸借が成立している場合、借りている側は建物の「通常の必要費」を負担します(民法595条1項)。固定資産税は通常の必要費にあたるとした裁判例があり、日常的な修繕費や水道光熱費も、住んでいる兄が負担するのが筋です。兄が固定資産税を納めず、他の相続人が立て替えているなら、その分を兄に負担させる主張が立ちます。屋根の葺き替えなど通常の維持を超える費用を兄が負担した場合は、償還を求められることもあります(同条2項)。誰がいつ何を負担したかは、領収書や納税通知書で記録しておいてください。
換価分割を選択肢に入れる
兄に代償金を支払う資力がなく、他の相続人も実家に住まない場合は、実家を売却して代金を相続分に応じて分ける「換価分割」が選択肢になります。相続人全員の合意があれば選べます。売却には住んでいる兄の退去が事実上必要なため、売却代金から引越費用を支払う、退去までの猶予期間を設ける、といった条件を組み合わせて話し合います。
図2 代償分割と換価分割の違い
分割案は、税金も含めて選ぶ必要があります。実家を売却すると譲渡所得税がかかる場合があります。相続税がかかる場合は、申告期限(亡くなったことを知った日の翌日から10か月)までに分割が終わっていないと、小規模宅地等の特例を使えません。
▶関連コラム:実家を売却して分ける換価分割の進め方、住んでいる相続人が退去しないときの対処法
実家の遺産分割を弁護士に依頼するメリットとは?
実家の居住をめぐる争いは、法律上の見立てで結論が変わります。弁護士が関与する意味が大きい場面を、3つのトラブルで見ます。
【トラブル1】家賃を請求したところ、「親が住んでいいと言っていた」と反論され、協議が止まる
親の意思を裏付ける手紙・メール・LINE・日記などを集め、使用貸借が推認される事案かを最初に見極めます。通らない請求を続けると関係が悪化するため、請求書を送る前に、資料を持って弁護士にご相談ください。
【トラブル2】兄が遺産分割の協議に応じず、数年が経過する
使用貸借は分割が終わるまで続くため、兄には協議を引き延ばす動機があります。協議が半年以上動かないときは、相続開始からの経過年数を確認したうえで、遺産分割調停の申立てを弁護士に相談してください。
【トラブル3】実家を売却したいのに、兄が退去せず、代償金も用意できない
兄は住み続けたい、他の相続人は現金化したい、という対立は典型的です。代償分割、換価分割、共有のまま維持する案の手取額と実現可能性を比べ、退去時期や引越費用を含む条件を組み立てます。弁護士が窓口になれば、兄と直接やり取りせずに済みます。
弁護士は、親の意思を示す資料の見極めから、兄との交渉、調停・訴訟、売却時の登記や税金の調整まで、窓口として一貫して対応できます。
依頼先の選び方は、関連コラム「不動産相続に強い弁護士の選び方7つのポイントについて弁護士が解説」で解説しています。
【当事務所の解決事例】自宅に住み続ける姉が売却に応じず、代償分割で調停が成立した事例
母の死後、自宅に住み続ける依頼者の姉が、売却に応じない事案でした。姉が自宅を取得して代償金を支払う代償分割を提案しましたが、姉は資金がないと述べ、交渉が止まりました。遺産分割調停を申し立て、自宅を担保とする高齢者向けの貸付制度(リバースモーゲージ)で代償金の支払原資を確保する案を示した結果、姉が自宅を取得して代償金を支払う内容で調停が成立しました。
詳しくは、解決事例「代償分割における支払原資確保としてリバースモーゲージを活用し、調停で合意に至った事例」をご覧ください。※個別の事案の結果であり、同様の結果をお約束するものではありません。
よくあるご質問
Q.親の存命中に兄が住んでいた期間の家賃も、さかのぼって請求できますか?
A.親が兄の居住を認めていた場合は、原則として請求できません。無償で貸す契約(使用貸借)があったと評価されるためです。親が退去や家賃の支払を求めていた資料があれば、親の賃料相当額の請求権を相続人が引き継いで請求できる場合があります。
Q.賃料相当額は、何年前までさかのぼって請求できますか?
A.金銭の請求権には消滅時効があります。一般的な債権は、請求できると知った時から5年、請求できる時から10年で時効にかかります(民法166条1項)。起算点は事案によって異なるため、古い期間の分を請求したい場合は、時効にかかっていないかを早めに確認してください。
Q.遺産分割が終わるまで、兄に出ていってもらうことはできませんか?
A.親の生前から同居し、親も認めていた場合は、遺産分割が終わるまで原則としてできません(最判平成8年12月17日)。遺産分割で他の相続人が実家を取得すれば、明渡しを求められます。話し合いが進まない場合は、遺産分割調停を申し立てて手続を進めます。
実家の相続でお悩みなら当事務所へご相談を
兄が住み続ける実家の問題は、家賃を請求すべきか、分割案の中で調整すべきかの見極めが最初の分かれ目です。「何年も話し合いが進まない」「兄と直接話すのがつらい」という方は、当事務所が交渉の窓口になります。
元非常勤裁判官が在籍するチーム体制
弁護士7名、家庭裁判所の元非常勤裁判官が在籍しています。相続案件は2名以上の弁護士のチームで担当します。
弁護士兼税理士が、税金まで見通します
代表の長谷山は弁護士兼税理士で、弁護士登録から20年以上、2025年度には神奈川県弁護士会の副会長を務めました。相続税や、実家を売却する場合の税金の見通しまで、法務と税務を併せて検討します。
相続登記まで窓口を一本化
司法書士と連携し、遺産分割の成立後の相続登記まで、当事務所が窓口となって進めます。
初回相談は60分無料です。まずは、親御さんの居住に関する手紙やメール、固定資産税の納税通知書をお手元にご用意のうえ、ご予約ください。
武蔵小杉あおば法律事務所(神奈川県弁護士会所属) 〒211-0004 神奈川県川崎市中原区新丸子東2−925 白誠ビル2階 武蔵小杉駅徒歩3分 電話:044-789-5441(平日9:30〜17:30)
▶ 関連コラム:不動産相続に強い弁護士の選び方7つのポイントについて弁護士が解説
▶ 関連コラム:故人が所有していた収益不動産の相続をしたい方へ

東京地方税理士会所属(登録番号159302) 代表弁護士・税理士 長谷山 尚城
宅地建物取引士試験合格(平成25年)
2000年 司法試験合格2002年 司法修習終了(第55期) 東京あおば法律事務所に所属(東京弁護士会)2004年 山鹿ひまわり基金法律事務所を開設(弁護士過疎対策・熊本県弁護士会)2009年 武蔵小杉あおば法律事務所 開設2014-15年 弁護士会川崎支部副支部長2019-20年 川崎中ロータリークラブ幹事2020-23年 法テラス川崎副支部長2024-25年 法テラス神奈川副所長2025年度 神奈川県弁護士会副会長2026年 税理士登録
























