土地・農地の相続の注意点とは?弁護士が解説
- 2026.07.28

「実家の畑を相続することになったが、農業をするつもりはない」「親名義の農地を、登記もしないまま長年放置している」——農地の相続は、宅地や預貯金の相続とは扱いが大きく異なり、農地法による手続きや売却・転用の制約が加わるため、対応に悩む方が少なくありません。
川崎市のような人口150万人を超える都市にも、一定規模の農地と農家が現に存在しています。市内の個人経営体の基幹的農業従事者は772人で、その55.4%を65歳以上が占めており、今後10年〜20年のうちに「農地の世代交代=相続」が一斉に訪れることが見込まれます。本コラムでは、土地・農地の相続で押さえておくべき注意点を、相続を扱う弁護士の視点から整理して解説します。
農地の相続問題でよくあるトラブルとは?
農地の相続は、通常の不動産相続と比べて「分けにくい」「売りにくい」「手続きが複雑」という特徴があり、次のようなトラブルが起こりがちです。
【トラブル1:誰も農地を引き継ぎたがらず、遺産分割がまとまらない】
相続人全員が都市部で会社勤めをしているケースでは、「農地は要らない」という点で意見が一致しても、では誰が名義を引き受けるのかで折り合いがつかず、協議が長期化することがあります。農地は固定資産評価額が宅地より低くなりがちで、農地を取得する人と他の財産を取得する人との間で公平感の調整も難しくなります。
【トラブル2:相続登記をしないまま放置し、権利関係が複雑化する】
名義変更をしないうちに次の代の相続(親の相続手続きをしないうちに、引き継ぐべき子どもまで亡くなってしまうこと。これを「数次相続」といいます)が発生すると、相続人がねずみ算式に増え、いざ売却や活用をしようとしたときに、全員の同意を取り付けることが極めて困難になります。相続登記は2024年4月に義務化がスタートし、現在はすでに義務化から2年が経過しています。放置している方への過料のリスクは、一段と現実味を増しています。
【トラブル3:売りたくても農地法の制約で売れない・転用できない】
農地は、農地のまま売る場合は買い手が農家等に限られ、宅地等へ転用して売る場合には農業委員会等の許可が必要です。地域によっては転用許可が下りず、結局「使えないのに固定資産税と管理の手間だけがかかる土地」になってしまうこともあります。
いずれのトラブルも、早い段階で全体像を把握し、方針を決めておくことで回避・軽減できます。判断に迷う場合は、相続と不動産の双方に詳しい弁護士への早期相談が有効です。
農地相続の流れを弁護士が解説!
農地を相続して名義を引き継ぐ場合、大きく分けて次の2つの手続きが必要です。申請先が異なる点に注意してください。
① 法務局での相続登記
まず、農地を管轄する法務局で相続登記(名義変更)を行います。基本的な流れは宅地など一般の不動産と同じで、被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍、相続人の戸籍・住民票、遺産分割協議書または遺言書などを添付して申請します。
相続登記は2024年4月1日から義務化されており、相続によって不動産を取得したことを知った日から原則3年以内に登記をしないと、過料の対象となり得ます(農地も対象です)。義務化から2年が経った現在、行政側のチェック体制も整いつつあり、「まだ手続きをしていない」という方は早急な対応をおすすめします。
② 農業委員会への相続の届出とは?
農地特有の手続きとして、相続登記とは別に、農地のある市町村の農業委員会への届出(農地法3条の3)が必要です。
- 届出期限:農地の権利を取得したことを知った時点から、おおむね10か月以内
- 売買と違い許可は不要:相続は意図的な権利移転ではないため農業委員会の「許可」は不要で、「届出」をすれば足ります
- 怠った場合:届出をしなかったり虚偽の届出をした場合、10万円以下の過料に処せられることがあります
なお、相続登記(法務局)の3年以内という期限と、農業委員会への届出のおおむね10か月以内という期限は別個のものです。期限を取り違えないよう注意してください。
農地の評価方法とは?
農地の相続を考えるうえで、「相続税の計算上の評価」と「遺産分割で実際にどう分けるかの価値」は別物だと理解しておくことが重要です。
川崎市の農地は「市街地農地」になることが多い
農地の種類にはいくつかの区分(純農地・中間農地・市街地周辺農地・市街地農地)がありますが、川崎市内の農地の大半は「市街地農地」または「市街地周辺農地」に該当します。これは、見た目は畑であっても、税金の計算上は「宅地(住宅地)に近い高い価値」として評価されるということです。そのため、相続税が想像以上に高くなる傾向があります。
評価方法としては、宅地としての価額を基礎に造成費等を控除して求める「宅地比準方式」によることが多く、純然たる農村部の農地より評価が高くなりがちです。具体的な評価区分や倍率は、国税庁の財産評価基準書や路線価図で確認します。
農地の相続は「分け方」を誤ると「税金」で大損します。当事務所は、私(長谷山)が弁護士と税理士の両資格を有しているため、法律(遺産分割)と税務(相続税)の窓口を一本化できるのが最大の強みです。農地相続では、遺産分割の揉め事と、生産緑地・納税猶予といった税金問題がほぼ必ずセットで発生します。両者を切り離さず、一体で検討することが、損をしないための鍵になります。
生産緑地・納税猶予が関わる場合は要注意
川崎市をはじめとする都市部では、農地が「生産緑地」に指定されていることが珍しくありません。生産緑地や、農業を継続する相続人に適用される農地等の相続税の納税猶予の特例が関わると、評価額・納税額・その後の営農義務が大きく変わります。とくに「特定生産緑地」への移行の有無は、次の代の相続税にまで影響します。
このテーマは判断要素が多く、誤ると税負担が一気に跳ね上がるため、別コラムで詳しく解説しています。
農地の相続を弁護士に相談するメリットとは?
農地の相続は、登記・税・農地法・遺産分割が複雑に絡み合います。弁護士に相談・依頼することには、次のようなメリットがあります。
- 分割方針の設計:「誰が農地を取得し、他の相続人とどう公平を図るか」を、代償金や換価分割も含めて法的に整理できます
- 交渉・調停の代理:相続人間で意見が対立した場合に、代理人として交渉や遺産分割調停・審判に対応できます
- 「要らない農地」の出口戦略:売却・転用に加え、相続放棄や相続土地国庫帰属制度の利用可否まで含めて検討できます
- 税・登記との連携:税理士・司法書士と連携し(当事務所は税理士資格も保有)、手続き全体をワンストップで進められます
「相続したくない農地」の選択肢
利用予定のない農地については、次のような出口も検討できます。
- 農地のまま、または転用して売却する(許可・届出が必要)
- 近隣農家やJA・自治体の制度を通じて貸し出す
- 相続放棄する(ただし農地だけを選んで放棄はできず、他の遺産も含め一切を放棄することになる点に注意。原則として相続を知ってから3か月以内)
- 相続土地国庫帰属制度を利用して国に引き取ってもらう(2023年4月開始。農地も対象だが、建物がない等の要件を満たす必要があり、審査手数料や負担金がかかる。特に川崎市内に多い「市街化区域内の農地」では、原則の1筆20万円よりかなり高額な負担金になるケースがあります。共有地は共有者全員での申請が必要)
なお、相続土地国庫帰属制度については、制度開始から数年が経ち、審査の厳しさや費用感といった運用実態が見えてきています。「不要な農地は国に引き取ってもらえばよい」と簡単に考えがちですが、実際には要件・費用の両面でハードルがあるため、利用可否は事前の見極めが重要です。
どの選択肢が有利かは、農地の立地・評価・他の遺産の状況によって変わります。「とりあえず放置」がもっともリスクの高い選択になりやすい点に注意が必要です。
よくあるご質問
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農地を相続したら、まず何をすればよいですか?
- まずは相続財産全体(農地以外も含む)を把握し、農地を「引き継ぐのか・手放すのか」の方針を検討します。引き継ぐ場合は、法務局での相続登記と、農業委員会への届出(おおむね10か月以内)が必要です。判断に迷う段階で、一度弁護士にご相談いただくのが安全です。
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農業をするつもりがなくても、農地を相続しなければなりませんか?
- 必ずしもそうではありません。売却・転用・貸付け・相続放棄・相続土地国庫帰属制度など、複数の選択肢があります。ただし、相続放棄は農地だけを選んで放棄することはできず、農地法の許可・届出など各手続きに固有の制約もあるため、メリット・デメリットを比較したうえで判断する必要があります。
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農地の相続登記をしないまま放置すると、どうなりますか?
- 2024年4月から相続登記が義務化され、正当な理由なく期限内に登記をしないと過料の対象となり得ます。さらに放置を続けると次の相続が重なり、相続人が増えて協議が事実上不可能になるなど、将来の負担が雪だるま式に大きくなります。早めの登記をおすすめします。
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農地の相続では、弁護士と税理士のどちらに相談すべきですか?
- 遺産分割でもめている、または将来もめそうな場合は弁護士、相続税や納税猶予が論点なら税理士の関与が必要です。農地相続はこの両方が絡むことが多く、当事務所のように両資格を備えた事務所であれば、分割と税負担を一体で検討でき、相談窓口を一本化できます。
土地・農地の相続でお困りなら当事務所へ
農地の相続は、「分けにくい・売りにくい・手続きが複雑」という三重の難しさを抱えています。武蔵小杉あおば法律事務所は、相続を主要分野とし、弁護士と税理士の両資格を活かして、遺産分割の交渉から相続登記・相続税・納税猶予の検討、売却や国庫帰属制度の出口戦略まで、一貫してサポートいたします。
「何から手をつければよいか分からない」という段階こそ、ご相談のタイミングです。手元に農地の図面や固定資産税の通知書がなくても、おおよその場所(住所)がわかる程度で構いません。「まだ相続は起きていないけれど、将来が不安」という生前のご相談も大歓迎です。武蔵小杉駅から徒歩3分のアクセスしやすい事務所ですので、お仕事帰りなどにもお立ち寄りいただけます。まずはお気軽にお問い合わせください。
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2000年 司法試験合格2002年 司法修習終了(第55期) 東京あおば法律事務所に所属(東京弁護士会)2004年 山鹿ひまわり基金法律事務所を開設(弁護士過疎対策・熊本県弁護士会)2009年 武蔵小杉あおば法律事務所 開設2014-15年 弁護士会川崎支部副支部長2019-20年 川崎中ロータリークラブ幹事2020-23年 法テラス川崎副支部長2024-25年 法テラス神奈川副所長2025年~ 神奈川県弁護士会副会長























