【2023年民法改正コラム3】所在等不明の相続人の不動産の持分取得・譲渡についての特則が制定されました
- 2022.11.14
法改正の基本的内容
相続により不動産が遺産共有状態(注:相続人全員で不動産を持ち合っている状態でまだ遺産分割が終了していない段階です)となったが、相続人の中に所在等が不明な者がいる場合があります。
そのような場合、これまでは裁判所に申立をして不在者財産管理人(=不在の相続人の代わりに財産等を管理処分する人で裁判所が選任します)を選任した上で、不在者財産管理人との間で遺産分割協議などをして、不動産の持分を取得するというように迂遠な手続きをとる必要がありましたが、共有状態のまま放置されることも少なくありませんでした。
この点、令和3年の民法改正(令和5年4月1日から施行)によって、所在等不明の相続人の不動産の持分取得・譲渡を可能とする特則が制定されました(新民法第262条の2,第262条の3)。
この改正により、相続開始時から10年を経過した後は、この持分取得・譲渡制度によって所在等不明者がいる場合の取得方法が合理化されることとなりました。
以下、詳しく説明します。
改正法についての詳しい解説
もともと、相続人の中に所在等が不明な者がいる場合に、不在者財産管理人を選任して、その者との間で遺産分割協議を経る必要があるとされていたのは、遺産分割を行うことに以下のような2つのメリットがあったからです。
すなわち、
①寄与分や特別受益などを踏まえた具体的相続分を主張する機会を保障できるというメリットと、
②不動産に限らず遺産全体を踏まえて解決することができるというメリットの2点です。
また、③今回のような持分取得・譲渡制度を新設しようとしても、①の具体的相続分に基づいて、その供託金の額を計算することが困難という問題点がありました。
しかし、相続開始時から10年の期間があれば、それまでに遺産分割の機会は保障されているといえ、①・②の点を重視する必要はありません。また、相続開始時から10年が経過すれば、遺産分割の基準は、原則として法定相続分となることから(当HPのコラム「遺産分割の時的限界」参照)、供託金の額も法定相続分を元に計算することができるようになります(③の問題点の解消)。
そこで、改正法は、共有者(相続人を含む)は、相続開始時から10年を経過したときに限り、持分取得・譲渡制度により、所在等不明相続人との共有関係を解消することができる、としました。
具体的には、以下のとおりです。
新民法第262条の2(要約)
共有者は、裁判所の決定を得て、所在等不明相続人(氏名等不特定を含む)の不動産の持分を、その価額に相当する額の金銭の供託をした上で、取得することができる
新民法第262条の3(要約)
共有者は、裁判所の決定を得て、所在等不明相続人以外の共有者全員により、所在等不明相続人の不動産の持分を含む不動産の全体を、所在等不明相続人の持分の価額に相当する額の金銭の供託をした上で、譲渡することができる
という2つの条文が新設されたのです。
例えば、新民法第262条の3の制度を利用することによって、裁判所の決定を受けた共有者は、所在等不明共有者を除く共有者全員で、特定の第三者と売買契約を締結するなどの方法をとることによって、所在等不明共有者の持分を含む不動産全体を譲渡することができるようになりました(ただし、譲渡するためには、他の共有者全員の同意が必要です)。
まとめ
冒頭で述べたように、相続人の中に所在不明等の方がいる場合、遺産分割協議が進まずに共有状態のまま放置されるケースも散見されました。今回の改正によって放置されている不動産が少しでも解消されることを期待します。
当事務所においては、こうした所在等不明の相続人の不動産の持分取得・譲渡についても、初回60分無料相談を実施しておりますので、不明点がありましたら遠慮なく、当事務所にご相談ください。
【法改正コラム1】寄与分や特別受益の主張について期間制限が設けられました【法改正コラム2】遺産共有と通常共有とが併存している場合の特則が制定されました
2000年 司法試験合格2002年 司法修習終了(第55期) 東京あおば法律事務所に所属(東京弁護士会)2004年 山鹿ひまわり基金法律事務所を開設(弁護士過疎対策・熊本県弁護士会)2009年 武蔵小杉あおば法律事務所 開設2014-15年 弁護士会川崎支部副支部長2019-20年 川崎中ロータリークラブ幹事2020年~ 法テラス川崎副支部長