Q 相続放棄できる期間(3か月)が過ぎてしまったら、もう相続放棄はできませんか?
- 2026.08.24

A:いいえ、必ずしも相続放棄ができなくなるわけではありません。
期限(熟慮期間)を過ぎていても、事情によっては例外的に相続放棄が認められる可能性があります。ただし原則は期限内の申述が必須ですので、早急な対応が必要です。
相続放棄には「自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月」という期限(熟慮期間)が定められています。もっとも、期限を過ぎたからといって一律に道が閉ざされるわけではなく、事情次第では裁判所が例外的に相続放棄を認めるケースもあります。原則は期限内の申述が絶対条件であることに変わりはありませんので、まずは正確な知識をもって、できるだけ早く対応することが重要です。
【解説】
1 相続放棄と熟慮期間の基礎知識
相続放棄とは、被相続人(亡くなった方)の財産について、プラスの財産・マイナスの財産(借金等)を問わず、一切を承継しないとする手続きです。家族や親族に「放棄する」と口頭で伝えただけでは法的な効力はなく、必ず家庭裁判所に申述をして受理される必要があります。
民法915条1項は、「相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない」と定めています。この3か月の期間を「熟慮期間」といいます。
2 熟慮期間はいつから数えるか
熟慮期間の起算点は「自己のために相続の開始があったことを知った時」であり、必ずしも被相続人の死亡日と一致するわけではありません。代表的なパターンは次のとおりです。
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被相続人と同居しており、すぐに死亡の知らせを聞いた場合
- →死亡した日
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被相続人の死亡を後から知らされた場合
- →知らされた日
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先順位の相続人が相続放棄をしたことで、自分が新たに相続人になった場合
- →そのことを知った日
3 期限を過ぎた場合の原則と重要な例外
熟慮期間内に相続放棄(または限定承認)をしなかった場合、民法921条2号により「単純承認」をしたものとみなされます。これは、借金を含めたすべての財産を無条件で相続する扱いです。
もっとも、最高裁判所第二小法廷は昭和59年4月27日の判決(民集38巻6号698頁)で、相続人が「被相続人に相続財産が全く存在しないと信じ」、かつ「そう信じたことについて相当な理由がある」場合(被相続人との交流が長期間途絶えていた等)には、熟慮期間の起算点を「相続財産の存在を認識した時」まで遅らせてよいと判断しました。実務上「熟慮期間の起算点に関する最高裁判例」として非常によく引用される重要な判決です。
この判例により、たとえば死亡から3か月を過ぎた後に、債権者からの督促状で初めて借金の存在を知った場合には、その督促状を見た時から改めて3か月以内に申述をすれば、相続放棄が認められる可能性があります。
4 期限徒過後に相続放棄を進める際の実務対応
- 「上申書(事情説明書)」を作成し、期限内に申述できなかった具体的な事情(被相続人との没交渉の経緯、死亡を知った経緯、負債の存在を知った経緯など)を詳しく記載して家庭裁判所に提出する
- 督促状が入っていた封筒、死亡を知らせる親族からの手紙・メールなど、「知った日」を裏付ける客観的な資料をできる限り集めておく
- 期限内であっても財産調査が終わらない場合は、家庭裁判所に「相続の承認又は放棄の期間の伸長」を申し立てることで、期限そのものを延ばすことができる(民法915条1項ただし書)
※ 期間伸長の申立ては、あくまで熟慮期間が経過する前に行う必要があります。期限を過ぎてから初めて検討する対応(上申書の提出等)とは区別してください。
5 関連する費用・付随する問題
相続放棄の申述書自体は、3か月以内に家庭裁判所へ「提出」さえしていれば、戸籍謄本などの添付書類の一部が後日の追完となっても、期限内の手続きとして扱われるのが実務上の運用です。手続きの「完了(受理決定)」までが3か月以内である必要はありません。
万が一、相続放棄の申述が却下された場合は、審判の告知を受けた日の翌日から2週間以内に、高等裁判所へ即時抗告をすることができます。ただし、一度却下された判断を覆すには相応の証拠と法的構成が必要となるため、専門家への相談が不可欠です。
また、期限内・期限後を問わず、被相続人の預金を引き出して使う、不動産の名義変更をするなど、遺産を処分する行為を行った場合は、それだけで法定単純承認が成立し(民法921条1号)、相続放棄自体ができなくなります。葬儀費用相当の支出は通常この「処分」に当たらないとされていますが、高額になると処分とみなされるおそれがあるため注意が必要です。
特に注意したいのは、「良かれと思って」やってしまいがちな次のような行為です。
- 故人の携帯電話・スマートフォンの解約手続き→契約上の地位(解約金・違約金の精算等)の処分に当たるおそれがあり、慎重な判断が必要です
- 形見分けで高価な腕時計や貴金属、着物などを受け取る行為→経済的価値のある遺品の取得は「財産の処分」とみなされ得ます。他方、すでに価値を失った衣類など経済的価値がほとんどない品を受け取る程度であれば、処分に当たらないとされた裁判例もあります
※ どの程度であれば形見分けとして許容されるかは、財産的価値の有無・相続財産全体に占める割合など個別の事情によって判断が分かれます。少しでも価値のありそうな遺品を受け取る前には、専門家に確認することをおすすめします。
6 よくある誤解
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誤解①「3か月以内に手続きをすべて完了させなければならない」
- →誤りです。期限内に必要なのは申述書等の「提出」であり、裁判所での審査・受理の決定は期限後になっても問題ありません。
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誤解②「期限があることを知らなかったのだから仕方ない」で例外が認められる
- →誤りです。単に法律を知らなかったという理由だけでは、期限後の相続放棄は認められません。認められるのは、相続財産が存在しないと信じたことに相当な理由があるなど、限定的なケースです。
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誤解③「一度でも督促状を見てしまったら、もう相続放棄はできない」
- →誤りです。督促状を見て初めて借金の存在を知った場合は、そこから改めて3か月以内であれば申述できる余地があります。ただし、放置すればするほどこの主張は難しくなります。
7 弁護士に相談すべきケース
- 被相続人の死亡から既に3か月以上が経過しており、借金の督促状が届いた
- 被相続人と長年疎遠で、死亡の事実や負債の有無を最近まで知らなかった
- 財産・負債の調査に時間がかかり、期限内に相続放棄すべきか判断がつかない
- すでに相続放棄の申述が家庭裁判所で却下されてしまった
- 先順位の相続人が相続放棄をしたことで、自分が突然相続人になったことが分かった
- 遺産の一部にすでに手を付けてしまったが、相続放棄ができるか不安である
8 まとめ
- 相続放棄の期限は「知った時から3か月」(熟慮期間、民法915条)
- 原則として期限を過ぎると相続放棄はできず、単純承認をしたものとみなされる
- 例外的に、相続財産の不存在を信じたことに相当な理由がある場合は、期限後でも認められる可能性がある(最高裁第二小法廷昭和59年4月27日判決・民集38巻6号698頁)
- 期限に間に合わない見込みがある場合は、事前に「期間伸長の申立て」を検討する
- 期限を過ぎてしまった場合は、上申書と客観的資料を揃え、速やかに弁護士に相談することが重要
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相続放棄の期限を過ぎてしまったかどうかの判断や、期限後の申述が認められる可能性の見極めには、民法の専門的な知識と、個別の事情を踏まえた戦略的な対応が欠かせません。
武蔵小杉あおば法律事務所は、弁護士7名・事務職8名という川崎・武蔵小杉エリアでも有数の体制で、相続放棄をはじめとする相続に関するご相談を数多くお受けしています。代表弁護士は神奈川県弁護士会の副会長を務めた経験に加え、税理士登録も行っており、相続放棄の判断に付随して生じやすい相続税・準確定申告等の税務面についても、弁護士と税理士の双方の視点から一体的にアドバイスできる点が強みです。相続税申告や不動産の名義変更が必要な場合も、提携する他士業と連携したワンストップ対応が可能です。
「期限を過ぎてしまったかもしれない」という段階でも、あきらめずにまずは当事務所までご相談ください。

宅地建物取引士試験合格(平成25年)
2000年 司法試験合格2002年 司法修習終了(第55期) 東京あおば法律事務所に所属(東京弁護士会)2004年 山鹿ひまわり基金法律事務所を開設(弁護士過疎対策・熊本県弁護士会)2009年 武蔵小杉あおば法律事務所 開設2014-15年 弁護士会川崎支部副支部長2019-20年 川崎中ロータリークラブ幹事2020-23年 法テラス川崎副支部長2024-25年 法テラス神奈川副所長2025年度 神奈川県弁護士会副会長























