遺言が無効であることを前提として交渉し、法定相続分に近い財産を取得できた事例
- 2023.09.05
相談者属性
年代:50代
性別:女性
相談内容
依頼者の母が亡くなりました。父はだいぶ昔に亡くなっており、相続人は依頼者とその姉の2人の姉妹のみです。四十九日も終わり、ようやくいろいろと落ち着いてきたので、依頼者が遺産分割協議をしようと姉に連絡したところ、姉は「母は遺言を遺していた。全財産を長女に相続させるとの内容になっている。あなたには遺留分だけ支払う。」と言い出しました。依頼者は、母が遺言を作ったなどという話は一度も聞いたことがなかったのでとても驚きました。
その後、姉の代理人だという弁護士から依頼者宛に手紙が来ました。財産目録の他に、公正証書遺言の写しも入っていました。確かにそこには「全財産を長女に相続させる」と記載されていたのですが、日付を見たところ、母が亡くなる3か月前でした。依頼者の母は認知症が悪化して、数年前から施設に入っていました。特に亡くなる半年前からは、依頼者のことも、かわいがっていた依頼者の子ども達(母からみて孫)のことも、全く分からないような状態でした。それどころか、父が10年前に亡くなったことも、自分が施設にいることも分からなくなっていました。そんな状態で遺言なんて作成できるはずありません。
依頼者の母は元気だったころ、「私の財産は、あなたたち2人で平等に分けてね。」と何度も話をしていました。認知症が悪化する前には、依頼者と姉の2人を実家に呼んで、母がどこの銀行に口座を持っているかや、どんな株式を持っているかまで詳しく教えてもらいました。
依頼者は、姉が何も分からなくなった母に無理やり遺言を作らせたに違いないと考えており、姉の弁護士が送ってきた公正証書遺言というのも偽造の可能性もあるんじゃないかと考えています。依頼者は、他の弁護士にも相談しましたが、公正証書遺言は覆すのが難しいと言われてしまいました。しかし、依頼者はどうしても納得できず、法定相続分通り、また、母の生前の希望通り、姉妹で平等に遺産を分けたいと考えています。どうしたらいいでしょうか?
弁護士の対応
まず、長女の代理人から送られてきた公正証書が信用できないとのことだったため、公証役場で他の遺言がないかを調べるのと合わせて、公証役場に対して謄本請求をし、長女の代理人が送ってきた公正証書の写しが、実際の公正証書遺言と同内容であり、なおかつ、これが最新のものであるかを確認しました(結論としては一緒でした)。
並行して、施設の介護記録や、病院のカルテを取り寄せました。そうしたところ、確かに依頼者のお話の通り、お母様は、亡くなる半年以上前から認知症がかなり悪化していたことが、介護記録や病院の記録から明らかでした。
ただ、一方で、公正証書遺言の無効を争う場合、自筆証書遺言と比べて、なかなか裁判所で無効が認められないケースが多いことも説明しました。
依頼者は早期解決を目指していたため、いきなり訴訟提起をするのではなく、まずは任意の交渉で進めることとしました。
そこで、長女の代理人に受任通知を送付する際に、介護記録や医療記録などの資料も添付し、公正証書遺言作成時に、遺言能力(遺言を作成する能力)が無かったことが強く疑われることを指摘し、法定相続分通りの遺産分割協議をすることを求めました。
結果
長女の代理人から、早期解決のために、遺産分割協議に応じたいとの連絡があり、最終的に、依頼者が法定相続分に近い現金を取得することで協議がまとまりました。-
弁護士所感
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公正証書遺言は裁判所で無効と認められるハードルが高いのですが、本件では、医療記録や介護記録上、被相続人の遺言能力に問題があることがかなり明確に記載されていました。相手方においても、裁判所で争って敗訴する(遺言が無効と判断される)リスク、判決までにかなりの日数がかかることのデメリットと、早期解決を天秤にかけ、裁判をせずに早期解決に至ったのではないかと思います。
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遺言無効を主張したい場合、どのような資料があれば争うことが可能か、また、どうやって資料を集めればよいか、まずは当事務所の弁護士に相談いただければと思います。
2000年 司法試験合格2002年 司法修習終了(第55期) 東京あおば法律事務所に所属(東京弁護士会)2004年 山鹿ひまわり基金法律事務所を開設(弁護士過疎対策・熊本県弁護士会)2009年 武蔵小杉あおば法律事務所 開設2014-15年 弁護士会川崎支部副支部長2019-20年 川崎中ロータリークラブ幹事2020年~ 法テラス川崎副支部長