被相続人の死亡後に初めて存在が判明した相続人との間で速やかに遺産分割協議が成立した事例
- 2023.08.28
相談者属性
年代:60代
性別:男性
相談内容
先日、依頼者の父が亡くなりました(母はそれよりも前に亡くなっています)。依頼者は一人っ子だと考えていたため、父の財産(預金口座や不動産)を相続するために、父の葬儀が終わってすぐに、父の出生から死亡までの戸籍を取り寄せました。
そうしたところ、依頼者の父には離婚歴があり、前妻との間に子ども(依頼者にとって姉にあたる人物)がいることが判明しました。依頼者は、父に離婚歴があることや、自分自身に異母きょうだいがいることなど、父からも母からもこれまでに一度も聞いたことがなく、強いショックを受けました。それだけでなく、不動産の登記手続きをお願いしようとしていた司法書士から、「異母きょうだいも相続人になるので、異母きょうだいと遺産分割協議をしなければならない。弁護士に相談した方がいい。」と言われてしまいました。
依頼者は両親の面倒をずっと見てきましたし、特に父が亡くなる前、父が認知症になってしまったため、かなり大変な思いをして自宅で介護をしていました。また、依頼者は、父が年金生活に入ってからは、将来、依頼者が相続をする前提で、父の自宅不動産の固定資産税を、長年、支払ってきました。さらには、数年前に不動産をリフォームしたのですがその費用も依頼者が出しています。それなのに異母きょうだいと遺産分割協議をして、法定相続分通り2分の1ずつ父の遺産を分けなければならないというのは全く納得がいきません。
依頼者の父の財産は少額の預貯金と、自宅不動産だけです。異母きょうだいの法定相続分を賄うだけの預貯金はありません。しかし、自宅不動産は依頼者の実家ですし、父亡き後も依頼者が住むことを前提にリフォームもしており、売却もしたくありません。「どうしたら良いでしょうか?」と、困っている依頼者はご相談に来られました。
弁護士の対応
依頼者のお父様は遺言を遺されていなかったということなので、原則として、法律上は法定相続分通りとなりますが、依頼者が長年介護をしてきたことや、お父様の自宅不動産の固定資産税やリフォーム代を支払ったことによる寄与分を主張する余地があることを説明しました。
ただ、そもそも本件のようなケースでは、異母きょうだいにあたる方が、面倒ごとを避けたいと考え、相続放棄をする・法定相続分を大幅に下回る内容の遺産分割に合意することもあるため、本件でも、まずはその方向での解決を目指すことにしました。
依頼者と打ち合わせを重ね、相続放棄を求めて協議が長引くよりは、多少のお金(代償金)を支払って、速やかに遺産分割を終わらせたいとのことでしたので、異母きょうだいへの受任通知の中で、
①相談者が被相続人のすべての財産を取得、
②異母きょうだいには代償金(おおよそ遺産の3分の1程度にあたる金額)を支払う、
という内容の提案をしました。
結果
異母きょうだいからは、「被相続人(依頼者の父)とは60年以上会っておらず、被相続人の存在も知らなかったので、今更、財産が欲しいというつもりはない。しかし、自分は父がいないために幼い頃より色々と苦労をしてきたので、完全に放棄はしたくない。」との話があり、 最終的には、当方の提案を受け入れるとの回答がありました。
そこで、速やかに遺産分割協議書を作成し、本件を終了することができました。
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弁護士所感
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もともと相談者は他に相続人がいることを全く想定していなかったこともあり、寄与分を証明できる証拠も乏しく、仮に、任意での交渉が出来ずに、遺産分割調停や審判に進んだ場合には、法定相続分どおりとなり、自宅不動産の売却も考えなければならない事案でした。
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相談者は当初、異母きょうだいに対しお金を支払うことに難色を示していましたが、多少の代償金を支払う提案をした方が、スムーズに進む可能性が高いことを説明し、納得いただけ、結果的には、それが早期解決につながりました。
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本件のようなケースでは、本来であれば、相談者のお父様自身が、亡くなる前に事情を相談者に説明したうえで遺言を作成するといったことをしておくべきでした。ただ、被相続人自身に法的な知識がないこと等もあり、被相続人が亡くなってから、思ってもみなかった相続人の存在が分かることがあります。
そのような場合には、速やかに弁護士に相談することをお勧めします。
2000年 司法試験合格2002年 司法修習終了(第55期) 東京あおば法律事務所に所属(東京弁護士会)2004年 山鹿ひまわり基金法律事務所を開設(弁護士過疎対策・熊本県弁護士会)2009年 武蔵小杉あおば法律事務所 開設2014-15年 弁護士会川崎支部副支部長2019-20年 川崎中ロータリークラブ幹事2020年~ 法テラス川崎副支部長