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母親の有効な遺言がなかったものの死因贈与が認められた事例

2023.01.06
相談者属性

年代:60代

性別:女性

相談内容

私の母親が先日、介護老人ホームにて亡くなりました。もともと、母親は老人ホームに入る前、数十年間、長女である私と、母親名義の自宅で同居していました。私と夫、娘一家は現在も母親名義の自宅に住んでいます。そのため、母親は、亡くなる前に、自宅を私に譲るという内容の公正証書遺言を作ろうとして、司法書士に依頼しておりした。実際、司法書士と打ち合わせの上、自宅を長女である私に譲る旨の公正証書遺言の案まで作成していましたが、いざ公証人に老人ホームに来てもらって公正証書を作ろうとした段階で、コロナの感染拡大のため、外部の人(公証人含む)と面会禁止となってしまい、公正証書遺言を作成できないまま、亡くなってしまいました。母親名義の自宅には私たち家族が現在も住んでいるので、このまま住み続けたいのですが、この場合、私は遺言がないものとして、他の相続人(妹)と法律の規定にしたがった相続分で分けなければならないのでしょうか?

弁護士の対応

当事務所の弁護士において、母親が事前に作成したという公正証書遺言の案を確認し、また途中まで公正証書遺言案の作成や公証人とのやりとりに関与したという司法書士にも事情を伺いました。その結果、公正証書遺言案それ自体は、形式面を重視する遺言書としては、法律上の要件を満たさずに無効であるが、この公正証書遺言案の作成段階で、自宅について死因贈与の意思(母親が死亡することを条件に、長女である相談者に自宅を贈与する意思)が表明されており、相談者もそれを受ける意思を表明したものとして、死因贈与契約が成立していると考えました。そうした法的見解を前提に、妹に対して弁護士から手紙を送り、自宅については長女である相談者に所有権があることを前提として、自宅以外の母親の財産について遺産分割協議をすることを求めました。

しかし、その前提での話し合いに妹が乗ってこなかったため、死因贈与契約に基づき、相談者が母親名義の自宅を取得したことを確認する訴訟を地方裁判所に提起することとなりました。

結果

訴訟提起したところ、妹に弁護士がつきました。当初、妹の弁護士は、死因贈与契約が成立しているとは認められないなどと述べていましたが、当方が、裁判所に対して、公正証書遺言の案文や、その作成の経緯に関する司法書士の陳述書などを提出していく中で、裁判所からも、死因贈与として認められる可能性が高いという心証が示されました。その結果、母親名義の自宅は長女である相談者が取得し、その代わりに妹は預貯金の大部分を取得するという内容での和解を成立させることが出来ました。

最終解決までの期間も死亡から1年と比較的短期間で終了しました。

弁護士所感

死因贈与が認められれば当方は自宅を取得でき、死因贈与が認められなければ法定相続分にしたがって自宅の持分も半分となってしまう可能性のある事案でした。なかなか、こういう案件では、相手方が折れてくることが少なく判決までいくこととなり、時間がかかってしまうことが多いのですが、今回は、早め早めに司法書士の陳述書や公正証書案などを裁判所に提出した結果、裁判所の有利な心証を引き出すことができ、その結果、亡くなったお母様の最終意思(自宅を長女である相談者へという意向)を実現することが出来ました。

コロナ禍になってから、公正証書を作成しようとしたものの、面会謝絶などによって、公証人と会う前に亡くなってしまったという相談を何件か受けております。仮に、遺言書としては無効でも、死因贈与として有効になる余地がありますので、まずは当事務所の弁護士宛に早めに相談されることをお勧めします。

この記事を担当した専門家
神奈川県弁護士会所属 代表弁護士 長谷山 尚城
保有資格弁護士 FP2級 AFP 宅地建物取引士試験合格(平成25年)
専門分野相続・不動産
経歴1998年 東京大学法学部卒業
2000年 司法試験合格
2002年 司法修習終了(第55期) 東京あおば法律事務所に所属(東京弁護士会)
2004年 山鹿ひまわり基金法律事務所を開設(弁護士過疎対策・熊本県弁護士会)
2009年 武蔵小杉あおば法律事務所 開設
2014-15年 弁護士会川崎支部副支部長
2019-20年 川崎中ロータリークラブ幹事
2020年~ 法テラス川崎副支部長
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